栄のストリートファッションの起点ともいえる『timeforlivin’』をはじめ、栄・大須にて5店舗のショップを経営する武山さん。“24時間働いていた”と語る20・30代を経て、43歳を節目に“少しゆとりのある生活“へ意図的にシフト。趣味のヨットを愉しみながら、仕事人として進化する姿勢も忘れない栄5丁目スタイルの今に迫る。
取材中、今の栄のファッションについて聞いてみた。自由なスタイリングを推す反面、お客さまがストリートの歴史に興味をもつこともひとつの願いだ。武山さん曰く、「ストリートファッションは過去の偉大な音楽や映画の功績、色んな文化が詰まっている。歴史やルーツに知識のある子達が、これからのストリートファッション業界を担っていくと思う」と語った。
―今、一番ハマっていることは何ですか?
ヨットだね。本格的に始めたのは、43歳の頃。この場所に住んでいることもあって、栄5丁目は俺の街!ってくらい、24時間ずっと街のなかで過ごしてる。20代・30代の頃なんて「名古屋のストリート業界で一番働いたんじゃないか!?」ってくらい栄で働いてきたから、43歳の時に強制的に街と仕事から自分を離す機会をつくって、“少しゆとりのある生活”をしようと思った。そのゆとり時間に趣味として始めたのがヨットなんだよね。
―ヨットの面白さは何でしょう?
操船できるだけじゃなくて、生活できることかな。蒲郡から三重県の答志島とか九鬼に行ったり、瀬戸内海も古い歴史のある島が多いから、島巡りをしながらクルージングしてるよ。あとヨットの魅力は、野生の勘が研ぎ澄まされることかな。俺のヨットはモーターじゃないから、風や海の海況をよみながら進路を決めるんだよね。常に波や風の音が聞こえるし、だんだん風が視えるようになってくる。魚の群れや潮目の存在にも気付くようになるし、自然の動きに敏感になってくる。そのせいか、街にいる時よりも、海の上の方が時間の流れるスピードが早く感じるんだよね。海は世界中と繋がっているし、街では味わえない原始的な時間を体験できるのがリフレッシュになっていると思う。
―趣味といえば、武山さんの仕事部屋には本もたくさんありますね!
読書が昔から好きで、この部屋には過去に感銘を受けた書籍や漫画、絵本を並べてる。本は常に何かを教えてくれる存在、読書は著者との対話だと思っていて、読書を通して知識を取り入れていくことは、俺自身にとってすごく大事なこと。気になった本はジャンルを問わず何でも読むし、著者が伝えたかったことを、探すことも好きなんだよね。
―一番影響を受けた本はありますか?
選ぶのは難しいけど、ロシアのグルジェフという哲学者について書かれた「奇蹟を求めて」かな。実はこの本をキッカケに、最近すごい事があったんだよ(笑)
―どんなことがあったんですか?
スウェーデンのポーラースケートカンパニーのトップに、ポンタス・アルヴという人物がいるんだけど、彼が製作した映像作品が世界的な評価を受けたの。その作品名が、「奇蹟を求めて」の英題「In Search of theMiraculous」で!このタイトルを起用する人は「奇蹟を求めて」を読んだ人しかいない!と思って、「僕もその本、読んでるよ!」ってポンタスにDMしたら、ポンタスから返信がきて、本についてめっちゃ盛り上がって…(笑)その出来事がキッカケで生まれたのが、今『timeforlivin’』で販売している、ポンタスとのコラボTシャツなんだよね。
―まさに奇跡ですね!本人にDMする武山さんの行動力も凄いです!(笑)
好奇心が強いタイプなんだよね(笑)元々バックパッカーだったし、常に色んな情報を知っていたい性分。死ぬまでに、自分が生きていた時代がどんな時代だったのか、たくさん知っておきたいし、それを知らずして死んじゃうのは嫌だな。仕事も相変わらず好きだし、時間が常に足りないよ(笑)
―仕事面で次世代に伝えていくことで、大切にしていることはありますか?
やっぱり「接客」だね。お客さまとの会話を通して、その人のストーリーを聞いて、信頼関係を築くことが大切だと思う。お客さまは僕たちを信頼しているからこそ、お金を払って、お買い物をしてくれる。そんな信頼関係を築ける「人間力」のあるスタッフを育てていきたいなと思う。栄5丁目って、3・4丁目に比べて華やかさに欠けるから、店やスタッフ達に魅力がないと足を運んでもらえないしさ(笑)
―それでも、武山さんは栄5丁目が好きなんですよね。
自分を育ててくれた大切な街だからね!あと僕らは主流じゃなくて、ニッチな奴らなんだ。この街には、自分が“本当に好きなこと”をやっている連中が集まっていると思う。人とは違う何かを、人に認めて欲しい奴らが集まっていて、その溜まり場のひとつに『T.F.L』がある。そのせいか、名古屋には、「『T.F.L』で育ったんですよ〜!」って言ってくれる人達が結構いたりするんだよ。30年続けてきて、「老舗」と呼ばれるようになったけれど、栄5丁目に“T.F.Lで育った子達”がいることが、一番の自慢かな。
撮影/鈴木啓司
取材・文/山田有真